この事例の依頼主
年齢・性別 非公開
相談前の状況
相談者は、東京都心部商業地域において商業ビルを所有しており、1階を小売店舗に普通賃貸借で長年賃貸していました。しかしながら、十数年以上賃料を改定していなかったので、周辺の路面店の賃料相場からは相当低くなっていましたので、賃料増額を賃借人に申し入れました。しかしながら、賃借人からは、景気が悪いとか、決して賃料が低くないとかの理由を持ち出され、賃料増額に応じようとしないので、どうすればいいか相談に来られました。
解決への流れ
まず、相談者のどの程度まで賃料増額したいかという具体的な希望賃料額を参考とした上で、懇意にしている不動産鑑定士に、相談者の物件についての適正賃料を鑑定してもらいました。鑑定してもらった適正賃料額は、現行賃料額よりも相当高額に弾かれていました。そして、私が代理人となり、賃借人が鑑定した適正賃料額を軸に任意に交渉をしたのですが、全く1円たりとも増額に応じませんでした。そこで、東京簡裁に賃料増額請求調停を申し立てましたが、調停が不成立となったので、東京地裁に賃料増額確認請求訴訟を提起しました。訴訟において、裁判所が選任した鑑定人が適正賃料額を鑑定しましたところ、現行賃料額から40パーセントも増額されるという結果でした。裁判所からは、和解の勧めがありましたが、結局和解は成立せず、現行賃料額から40パーセントアップの新賃料額で判決がなされ、両者とも控訴しなかったので、判決が確定して解決することとなりました。
建物賃貸借において現行賃料を増額しようとする場合、賃貸人・賃借人の増額についての合意が成立すればいいのですが、成立しない場合、借地借家法32条1項の手続に基づいて増額が認められることとなります。両者の合意ができない場合、増額を希望する賃貸人は、まず簡易裁判所に賃料増額請求調停を申し立てなければなりません(これを「調停前置主義」と言います。)。簡裁で調停が不成立となって初めて地方裁判所に賃料増額請求訴訟を提起することができます。訴訟手続において、賃貸人が請求する新賃料額が適正であることを証明するために、不動産鑑定士に賃料額を鑑定してもらうことになります(これを「私鑑定」と言います。)。借地借家法32条1項において、賃料増額請求をなすための前提条件として、現行賃料の最終合意時点から、新賃料請求の意思表示をなした時点までの期間において、①建物の借賃が、土地若しくは建物に対する租税その他の負担の増加、②土地若しくは建物の価格の上昇、③その他の経済事情の変動、④近傍同種の建物の借賃に比較して不相当となったときを充足する必要がありますので、私的鑑定においては、適正賃料額の鑑定に加え、これら①-④の項目についても上昇・増加傾向(右肩上がり)であることを鑑定してもらう必要があります。賃貸人としてし鑑定を証拠として提出し、裁判所鑑定人がそれを参考にして、裁判所鑑定人としての適正賃料額を鑑定することとなります。多くのケースでは、裁判所鑑定人の鑑定額で、新賃料額が和解で決定されることとなりますが、和解が成立しない場合、この相談者のように判決をもらうということになります。賃料増額請求において重要なのは、新賃料が裁判所で決定した場合、賃料増額の意思表示をした時点から現在に至るまでの差額を賃借人に請求できるということになりますので(加えて年1割の利息も請求することができます。)、賃料増額の意思表示は明確に行っておくことが肝要です。また、和解手続となった場合に、裁判所は、この新賃料との差額の支払額を調整することで和解を成立させようとしますので、その点も要注意です。