この事例の依頼主
60代 男性
当時大学生であった息子を事故で亡くされたご両親からの相談でした。事故は息子さんが友人の車の後部座席に乗っていたところ、その友人が寝不足などで運転を誤り、高速度で路外の縁石・道路標識等に車両を衝突させ、その結果車両が大破し中に乗車していた息子さんが亡くなったというものでした。多くの事故は他人の運転する他の車両との衝突により生じるものですが、今回の事故は自分が乗車していた車両の運転者が加害者となるケースという点で特殊なものでした。加害者側からは、事故当時に息子さんが①後部座席においてシートベルトを不装着であったこと及び②友人の車に自らの意思で乗車したこと(いわゆる好意同乗)を落ち度として4割の過失相殺を主張されていました。
加害者からの4割の過失相殺の主張に対しては、以下のとおり主張・立証しました。①シートベルト不装着⇒シートベルト不装着が過失とされる場合として、不装着の事実が結果の発生に因果関係を有することが必要とされることを指摘した上で、息子さんの死因は事故による衝撃で車両が大きく変形しこれにより車内において強く圧迫されたことが原因であること、車外に放り出されたわけではなくシートベルトの不装着は死亡結果発生に対して何ら因果関係がないことを主張・立証しました。②好意同乗⇒好意同乗の事実が過失となる場合について過去の裁判例を調査し、いかなる場合に過失が認められるかの基準を確認しました。そのうえで、事故当時、息子さんが加害者の危険・無謀な運転を誘発したり、これを容認したという事実は無いことを刑事記録から立証しました。上記の主張・立証がいずれも裁判所に認められ、事故についての息子さんの過失は存在しないことが認められるに至りました。
死亡事故の特徴として、事故の状況を最も知る被害者本人が亡くなっており、交渉や裁判の段階では被害者側の遺族は事故の詳細な状況を確認する手段に乏しいという点があります(いわゆる「死人に口なし」の状況)。そのため、加害者側保険会社等より相手に有利な事故態様を主張されてしまった場合にこれに反論することが容易ではありません。そんな中でも諦めることなく、事故について取り扱った捜査機関が収集した資料等を詳細に検討することにより、事故の状況を明らかにし、もし相手方が真実と異なる主張をしている場合であってもそれに対して反論をすることが可能となります。また、一見すると落ち度のように思える「シートベルト不装着」といった事情についても、具体的な状況によっては過失として考慮されない場合があります。私の事案対応方針として、こうした細かい点についても諦めずに粘り強く交渉・訴訟対応に当たることを常としています。