この事例の依頼主
50代 男性
依頼者のAさんは、10年以上にわたり本件ビルの1階の一室を借りて家具の輸入の会社を経営してきました。ところが、本件ビルのオーナー会社(不動産会社)から本件ビルが著しく老朽化していることを理由に明渡しを求める調停を申し立てられたことから、当事務所に相談に来ました。
Aさんとしては、最終的にはオフィスを明け渡すことはやむを得ないとしても、急に立ち退くことは出来ないし、別のビルに移転するのにかかる費用を賄うだけの立退料を支払ってもらわなければ、簡単に立ち退きに応じることはできないという要望がありました。すでに、当職のところに相談があった時点で既に賃貸人側から、立ち退きについての調停が申し立てられておりました。そこで、当職は、相手方(Aさんの会社)の代理人として調停の中で明渡しに応じる前提として代わりになる不動産を探してもらうこと(賃貸人が不動産会社であったため)と、立退料の提示を求めました。調停手続きの中では、本件ビルのオーナー側から、数件の不動産の紹介はありました。Aさんが、会社の移転先として気にいる物件の提示はなく、また、立退料についても何らの提案もありませんでした。結局、調停は不成立となってしまい、しばらくして賃貸人より訴訟が提起されましたので、引き続き当職が訴訟代理人として受任することになりました。訴訟の中の和解のプロセスにおいては、賃貸人側も具体的な立退料(400万円)を提案してきましたが、当方にとっては不十分な金額でした。そのため、当職としては、立退料の合理的な算出のための主張・立証を行いました。まず、立退料の算出にあたって、①賃貸物件の価値(借家権価格)、②移転した場合の営業上の損失額、③実際に移転した場合に掛かる費用等について客観的な資料を証拠として提出するなどして具体的に主張しました。さらに、立ち退き料の算定方法に関する下級審裁判例などを多数引用し、原告側(本件ビルのオーナー側)の主張が不合理であるということを主張・立証しました。最終的には、双方が主張・立証を尽くした結果、裁判所から約1300万円の立退料での和解を勧められました。この立退料の金額は、訴訟の当初本件ビルのオーナーが提案してきた金額の約3倍の金額でした。また、オフィスを移転するにしても、移転の準備が必要になることから、一定の猶予を設けて欲しいという要望を出したところ、和解案として、明渡時期も和解成立時から半年後に設定されました。最終的には、上記の和解案で裁判上の和解が成立することになりました。
ビルのオーナーから建物の明け渡しを求められた場合、テナント側は自分にどのような権利があるのか分からないまま不当に安い立退料で立退いてしまうケースがよくあります。しかし、自発的に立ち退いてしまうことにより、本来得られるはずの「立退料」が得られない場合が多く見受けられます。また、本件訴訟では当職が受任してから実際の明渡しまでに2年半程度掛かっており、結果的に明渡しまでの猶予期間が得られたことになります。きちんと賃料を支払っている限りは、テナント側には借りている不動産を使用する権利が認められております。たとえ、「最終的には明渡しても構わない」と考えていたとしても簡単には応じないことにより、明渡しまでの時間的な猶予や比較的高額の立退料を得ることも出来ます。弁護士に相談をして、どのように振る舞うが合理的なのかを検討するようにしてください。