犯罪・刑事事件の解決事例
#医療過誤

食道癌手術後、急性循環不全で死亡した事例

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小林 洋二 弁護士が解決
所属事務所九州合同法律事務所
所在地福岡県 福岡市東区

この事例の依頼主

60代 男性

相談前の状況

患者は60代の男性です。ステージ1bの食道癌と診断され、右開胸開腹食道亜全摘、リンパ節郭清、後縦隔胃管再建術を受けたところ、手術室からICUに戻った直後から頻脈、血圧低下となり、ICU入室後約5時間後に心停止、蘇生措置によりいったんは心拍が再開しますが、意識を回復することなく約1ヶ月後に亡くなりました。わたしが相談を受けた時には、遺族による裁判が既に始まっていました。しかし、遺族たちは、依頼していた弁護士との信頼関係をうまく築くことができなかったようです。その委任関係を解消し、次の弁護士を探す中、わたしの事務所を紹介されたとのことでした。

解決への流れ

食道癌の手術は、最も侵襲度の高い手術の一つであり、それだけに術後の循環に対する影響は大きく、きめ細やかな血行動態の管理が必要であるとされています。一方、臓器や組織への血流を維持するためには、平均血圧65㎜Hg以上(平均血圧=拡張期血圧+(収縮期血圧ー拡張期血圧)÷3)が必要であり、これを下回ると、組織が低酸素に陥ることになります。したがって、術後の血圧低下に対しては、輸液の量を調節したり、昇圧剤を使ったりして、平均65㎜Hg以上を維持することが必要とされています。本件では、ICU入室1時間後には平均65㎜Hg未満となり、鎮静剤の投与中止、新鮮凍結血漿投与といった措置にもかかわらず、血圧の低下傾向は進みました。その2時間後には、血ガス分析では、pH7.195、血清乳酸値11.1molという極めて重篤な乳酸アシドーシス(組織の低酸素状態を示します)が明らかでしたが、それは医師に報告されていません。訴状では、病院のほか、医師2名、看護師1名を被告としており、それぞれに対して多数の過失が主張されていました。それは依頼者である遺族の強い希望によるものでした。わたしは、過失を血圧管理の懈怠一本に絞り、医療従事者個人の責任は問題にしないことを条件に、この事件を受任しました。このように争点を絞り込んでしまえば、平均血圧が65㎜Hg未満となり、さらに低下を続けているにもかかわらず、大量輸液も昇圧剤投与も行っていない病院の責任は明らかで、担当医の尋問のみで、比較的短期間に、責任を前提とする和解勧告を得ることができました。

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小林 洋二 弁護士からのコメント

医療事故の被害者は、医療側がいかに悪質であるかを強調しようとしてたくさんの過失を主張しようとします。しかし、それがいかにひどい過失であっても、最終的な結果との因果関係がなければ、法的には意味がありません。過失が多くなればなるほど、結果との因果関係の整理は難しくなります。主張、立証に時間がかかりますし、主張に齟齬をきたして、勝てる事件も勝てなくなる可能性があります。また、被害感情がつよいほど、医療従事者個人の責任を問題にしようとします。しかし、チーム医療の中で、その医療従事者個人の過失を特定するのは容易ではなく、これもまた、勝てる事件が負けてしまうリスクを含んでいます。しかし、遺族は、勝って賠償金をもらうためだけに裁判をするわけではありません。責任を明らかにしたい。それを、再発防止に繋げたい。そのことによって、大切な家族の死を、社会的に意味のあるものにしたい。そういう気持ちは、十分に理解できます。わたしが、この事件を受任するにあたって遺族に提案したのは、とにかく病院の法的責任を認めさせることを優先しましょう、そして、その責任を前提として、医療法第6条の10第1項の医療事故として、医療事故調査・支援センターへの報告を求めましょう、ということでした。そのことによって、本件医療事故の教訓が社会に共有され、再発防止に役立つことになるのではないか。幸い、早期に和解を成立させることができ、病院側代理人の尽力もあって、和解調書に、「被告法人は、本件事故につき、医療法6条の10第1項の医療事故として、医療事故調査・支援センターに対して報告を行う」という条項を盛り込むことができました。事務所ブログ「医療事故報告を条件に和解」、「報告を要する医療事故とは」でも詳細に報告していますので、興味のある方は是非、お読みください。http://blog.livedoor.jp/kyushugodolo/archives/59691827.htmlhttp://blog.livedoor.jp/kyushugodolo/archives/59702659.html